Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

新連載Game Plan「Game 1 アサヒビールシルバースター戦」

 ある試合に向けてのチームの戦略や予測される展開のことをゲームプランと呼ぶ。普通は、少なくともシーズン中には、チームの試合に向けたゲームプランが公にされることはないが、ただでさえニッチで敷居の高いアメリカンフットボールの面白さを少しでも多くの人に知ってほしいという想いと、宇宙のように広がるインターネットの世界の片隅の片隅で野垂れ死ぬように更新されているこのブログを発見してくれた方のために、試合毎にゲームプランを公開しようというのがこの新連載「Game Plan」である。そんなことよりも前の連載が途中じゃねえか!!という糾弾の声はTwitterのDMにでも送ってほしい。(Twitter:@coach_novice)

 Game 1 アサヒビールシルバースター

 X1エリアの秋季リーグ戦は12チームを4チームずつに分けたブロック制で、我々富士ゼロックスミネルヴァはX1エリアのイーストに所属している。シーズンの6試合の中、3試合は同じブロックに所属する残り3チームとの対戦。そして残り3試合は他ブロックとの対戦となる。

1節:アサヒビールシルバースター
2節:警視庁イーグルズ
3節:明治安田ペンタオーシャンパイレーツ
4節:AFCクレーンズ
5節:電通キャタピラー
6節:アズワンブラックイーグルズ

上記が今シーズン、ミネルヴァが対戦するカードなのだが上位リーグに上がるためにはX1エリアで上位2チームにランクインしてエリアファイナルに進出する必要がある。リーグの戦況を鑑みれば6戦全勝以外にエリアファイナルに進出する術はないというのが現実的だ。
 そこで最も大きな壁になるのが初戦のシルバースターなのは誰がみても自明で、逆に1節目の壁を越えることができたならそこから先の5試合の勝率は高くなっていくのも、私の主観に留まらない意見だと思っている。そういうわけでシーズンのスケジュールが出て以降、チームの目標は“打倒シルスタ”となっていった。

 では実際にシルバースター相手に私が指揮するオフェンスチームがどのようなゲームプランを打ち出したのかを紹介しよう。
 この試合のスローガンは“DRIVE”。プレー開始から笛が鳴るまで足を掻き続けることや、精神的にも常にエンジンをかけて高揚させておくことを意味づけるとともに、ゲームプランとして最も大事にしていたロングドライブをすることも強調した。アメフトにおけるドライブという言葉には主に2つの意味があり、ひとつはぶつかる相手を押し続けること。そしてもうひとつはオフェンスチームが陣地を進めていくこと。すなわちロングドライブというのは、より長い距離をオフェンスチームが進んでいくことを意味している。

ゲームプラン①ロングドライブで時間を消費すること
 これがひとつめのゲームプランだ。シルバースターの新加入の外国人選手の3人がオフェンスの選手であることと、攻撃と守備のパワーバランスからしてシルバースターのオフェンスにボールを持たせる時間を極力少なくすることで、点差を付けられるリスクを回避したかった。そのためには必然としてミネルヴァオフェンスがロングドライブをして48分の試合時間の多くをポゼッションする必要がある。

ゲームプラン②地上戦を制すること
 ひとつ目と重なる部分もあるが、ロングドライブといっても時間を消費するためにはインバウンズでゲインを重ねる必要がある。パス失敗やアウトオブバウンズでは時計が止まりタイムポゼッションすることにつながらない。確実にインバウンズでドライブをつなげるには地上戦、つまりはランプレーでゲインを重ねることが必至になる。

ゲームプラン③我慢!!
 ランプレーでポゼッションするとなるとオフェンスチームが大量に得点することは期待できない。しかし相手チームに先制されて焦って攻撃姿勢を取りなおすことは反ってオフェンスチームのテンポを乱すことになる。バタバタしてしまうのだ。あらかじめロースコアの競り合いになることを選手に伝えておくことで点の入らない状況を不安に思わせず、むしろ最後まで集中力を保つためのマインドセットになる。

 とにかくタイムポゼッションにフォーカスするこの3つのゲームプランを軸にさらに具体的な作戦が展開される。例えば、これだけランプレーを強調しておきながらこの試合の1プレー目はパスである。秋の第1節は互いに直近のスカウティングの資料が春のビデオしかない。ミネルヴァのオフェンスは春の3試合すべてで1プレー目を同じフォーメーションからのランプレーに統一していた。加えてその同一の体型からは狭いサイドに展開するランプレーのみを使用していたため、相手チームがスカウティングをしていたならば極端な傾向が出ているはずである。その伏線を回収する形で、春と同じフォーメーションからランプレーのフェイクを入れたミドルからロングレンジのパスをコールすることにした。分かりやすい伏線回収だが、この1プレーに対して相手がどう対応してくるかでシルバースターの準備と守備の方向性を理解しようとする意図もあった。試合前の見立てでは、少なくともこれまでのランの展開サイドであるフィールドの狭いサイドにセーフティを降ろしてくる1 High SF系のパスカバーであるだろうということだった。
 他にも試合を通して考察するべき点は多くあるが、書ききれないことと、これから先不利になりそうな情報もあるのでこのあたりで情報公開はやめておこうと思う。

 ここまでが事前に考えていたこと。では実際にそれがどう機能したのかについて加筆していこう。試合の結果は、事前のファン投票で91%がシルスタの勝利を予想していたのをひっくり返し、14-13富士ゼロックスミネルヴァの勝利。ミネルヴァがシルバースターに勝利するのは初めてのことで、今シーズン最大の壁を越えることができたことに肩の荷が下りた気分だった。そのことについてはまた別のエッセイにしたためようと思う。
 全体のコンセプトであるタイムポゼッションについてはほぼ完ぺきに機能した。48分ある試合時間の内、約32分をミネルヴァの攻撃で占有し、結果的にシルバースターが反撃する隙を与えない要因になった。しかし詰めが甘かったのがレッドゾーン。スタッツを見て分かる通り、この試合ミネルヴァオフェンスはTDなしで14点を獲得している。4本のFGと相手チームのセーフティによる2点なのでドライブによって得点したのは12点のみということになる。また、ブロックされたFGトライが2つあったため、オフェンスとしては決めきれないと言われても仕方ないところである。ただし、ゲームプランにあったように我慢の試合になることを周知させていることが、得点できない攻撃陣のムードを下げないために機能したことは事実だろう。
 1プレー目の春の伏線回収は、実際にはシルバースター守備のパスインターフェアランスの反則で15ydsのゲインに成功した形に終わった。相手の対応は予想通りの1 High。しかしゾーンカバーでなくマンツーマンのカバー1を選択して来たことで、ボックス内の7人をランストップに集中させたい考えとマンカバーでレシーバーを封じ込める自信を感じ取った。特にミネルヴァがリードする展開で後半に入りパスラッシュが激しくなったことからも、プレッシャーディフェンスでQBの判断ミスを誘いゲインを許さない展開を望んでいたようにも考えていた。
 そこで予想を裏切ったのはパスチームの頑張りである。それまで攻撃チームの武器はラインナップと豊富なランニングバック陣だった。元学生日本代表や甲子園ボウルを制した選手を有するラインナップはX1エリアでも随一だと感じている。ロングドライブのエンジンとなったのが彼らであることは違いないのだが、実は16回の1stダウン更新の内9回はパスプレーによるものだった。そしてこの試合で最も重要なダウン更新だったのが、試合時間残り2分18秒、敵陣20ヤード付近4thダウン残り5ヤードのギャンブルだった。これをカバーされながらもパスプレーでフレッシュしたことで、最小でも2分25秒をオフェンスで有することができる。実際にはシルバースターのタイムアウトにより残り1秒を残して攻守交替をしたが、シルバースターのラストプレーを守備してゲームセット。14-13という接戦を制し、勝利することができた。

 以上がこの試合のゲームプランと実際の試合展開へのコメント。割と真面目な話で笑いどころがないのは申し訳ないが、こうして許される範囲で戦略を公開することでファンが増えることや、日本のフットボールがより活発に議論されるきっかけになればいいと思う。


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