Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Game Plan「Game 4 AFCクレーンズ戦」

Game Plan「Game 4 AFCクレーンズ戦」

 Game 4 AFCクレーンズ戦

 普段からよく考えることがある。「自分らしさ」とか「自分が自分である理由」とかについてだ。もしもこの時点で、「あ、自己啓発系のめんどくさい文章だコレ」と察した方がいたら、大正解。ここからさき10行ほど、全く無意味な読書体験が広がっているので読み飛ばした方が賢明だろう。
 昔から没個性的なことが嫌いで、人と違うことに価値を見出そうとしてきた。周りにそれを、天才でありたいという願望の現れだと言われれば頑として否定できないが、少なくとも私のメタが言うには、私の個性的でありたい願望はアイデンティティの不安定さに寄生する欲求らしい。「なぜ私でなければいけないのか」という命題を常に抱えながら生きてきた。こういう何か人生をかけたような問題には、人生を揺るがすイベントやトラウマがつきものだったりするが、私の人生はそう劇的なものでない。だからなぜややこしいことを考えてしまうのかと聞かれれば、そういう星の下に生まれてしまったからと答えるほかない。面倒な人間なのだ。
 冒頭から胃もたれする話の入りをしたのは、富士ゼロックスミネルヴァのオフェンスを私が指揮することにどういう意味があるのかについて考えていたからだ。前節に負けてからずっとついて回っていたこの問題は、私がOCを務めることの社会的な意義から、逆に私じゃない人間が務めるのではダメなのかというネガティブな発想に至るまで、幾周にもわたって思考を繰り返させた。
 答えは出ていない。ただはっきりしているのは、今のオフェンスに満足していないということだった。これまでは戦略的に、あるいはシチュエーション毎に消極的なプレーコールをしていた。シルバースター戦では、最後ニーダウンでイートすればゲームセットのシチュエーションで実はWRのサイドスクリーンをコールしていた。どうしてもTDが欲しかったからだ。パイレーツ戦のハーフタイム直前の残り40秒のシチュエーションでもプレーアクションのロングパスとインサイドゾーンの2択を、グラウンドコーチの進言で後者を選択した。間違っていないと思う。ただ、今私の中にぐるぐると巡っている思考の根幹にあるのは、良し悪しの問題ではなく、個人としての好き嫌いの問題なのだ。
 そんな話を、ゲームプランを展開するために録画したビデオで選手にも伝えた。土曜日が台風のため練習がキャンセルになり、試合に向けてのコミュニケーション不足を感じていたため、ミーティング代わりにスライド資料に私の音声をのせてチームに展開した。もちろんイントロにはビタースイートサンバもBGMとしてかけた。
 この試合、大きく変わるのは試合のオペレーションだ。これまでスポッター席からピッチを俯瞰しながらプレーコールしてきた私だが、次からグラウンドに降りることにした。代わりにQBコーチの明堂氏をスポッター席に上げコミュニケーションを取る。グラウンドでは変わらずOLコーチの糸井氏と連携してプレーコールを決めていく。私をグラウンドに降りるように進言してくれたのも両コーチで、ちょうど頃合いを同じくして私自身もきっかけがあってグラウンドでプレーコールすることを考えていた。というのも、サイドラインとの物理的な距離が、どうしても選手と共にゲームを作るのに邪魔な気がしたからだった。そして何より、オフェンスチームをまとめるために私が機能するには地上でのオペレーションが最適だと考えた。プレーのコーディネートと同等にオフェンスをチームとしてコーディネートすることも、やはりコーディネーターである私の役割なのだろう。

 長々と、とりとめのない話を書いてしまったが、是非グラウンドでちょこまかと動き回る全身黒ずくめの私に注目していただきたい。以下、選手に展開したゲームプラン(原文まま)である。

ゲームプラン①超バランスアタック
 ランパス比5:5、LOSのアタッキングポイント、フィールドのアタッキングポイント、プレータイミングなどあらゆる点でバランスを極めしコールシート。
 QBはプレーコールに身をゆだねて気ままにプレーして頂ければ心理的にも楽でしょう。
特にキャリアはPOAアタックを徹底すること。初期のアウトサイドゾーンを思い出してカットバックを意識しない代わりに、トップスピードでLOSを通過しましょう。
 キーブロックも同じで、特にプルアウトは今回の相手ではバウンスせずにPOAを切りあがるケースが多いことが想定されるのでキャリアの壁にならないように。

ゲームプラン②クオリティを徹底、スピードで圧倒

 選手ひとりひとりのレベルやアサイメントの遂行能力を見ても圧倒的にミネルヴァオフェンスが勝っている。ただしそれは持てるポテンシャルを100%発揮できたときに限った話。スタートに始まり、アサイメント通りの動きができたのか、キーリードやルートが適切なのか。レビューMTGで「ちゃんと動いていたらプレーが出ていた」といった話は「じゃあやれや」で終わってしまうので、まずクオリティの高いプレーを徹底しよう。
 また、課題としてプレースピードの低下が挙げられる。ラインズはステップだけでなく、ドライブしてセカンドに抜ける動きまでをフルスピードで。QBもハンドオフのファンダメンタルを今一度徹底。キャリアはキーリードが足を止めるのであればトップスピードでLOSを抜けることにフォーカスしよう。
 相手はボールリアクションのディフェンス。CB、SFは予想外な動きや寄りの速さを見せるケースがあるためWRはセキュリティとRACのイメージを持つこと。

ゲームプラン③攻め続ける
 ひとつはゲーム全体として攻め続けること、もうひとつは相手に合わせたプレーをしないこと。
これまではプラン全体、あるいはシチュエーションによってランで消化しようとする消極的なゲーム運びだったが、はっきり言って全然好みじゃない。今回は取れる点は全部取りに行く。オフェンスの流れであれば1Qの4DN5も取りに行く。オフェンス全体に自信を取り戻そうと、そういう意味で攻めた試合にしたい。
 もうひとつ。毎試合の課題として言われるのが、相手に合わせたプレーで流れをつかめないこと。そういう意味では試合の入りとして一番不安がある。相手がどれだけ遅くても、逆に早くても、常に自分たちの最高のパフォーマンスをすること。攻めたステップ、攻めたボール、攻めたエイミング、攻めたプレーコールで完膚なきまでにやる。

【答え合わせ】

富士ゼロックスミネルヴァ 33-0 AFCクレーンズ

 空は曇っていた。朝からしとしとといった感じで降り続いた雨は気を利かせたように止んだ。第2シリーズ、自陣20ヤードからのオフェンス。テンポよくつながったドライブだった。敵陣10ヤードまで侵入しフレッシュ。1シリーズ目でスコアし損ねている思いも相まって、畳みかけるようにスコアを狙いたい私はショットプレー(1プレーでTDできるプレーコール)を選択しようとコールシートに目を落とす。選んだのは21パーソネル(2TE、1RB)の両オープンWRのフェード。QBにプレーコールのサインを伝えながら「あ、やばいかな」と思った。普段は敵陣5ヤード以内でコールするプレーで、10ヤードではやりなれないプレーだったと気づいたのは、パーソネルグループの入れ替えをしてからだった。ミネルヴァには21パーソネルのプレーコールが両WRのフェードしかない。勝ちにいかせるコールだから敢えて裏も表も作らず勝負させる意図があるのだが、これが10パーソネルや11パーソネルなどのベーシックな体型であればパーソネルグループを入れ替えた後でも、プレーコールの変更が利きやすかったのかもしれない。いざスナップ。アンダーセンターでボールを受けたQBはドロップバックもそこそこに、エアーをつけてボールを送り出す。ターゲットは22番桑原。浅めの放物線を描いてバックパイロン手前に沈んだボールはCBの背中に当たり地面に転がった。やっぱり駄目だったかと思うのと同時にプレーコールで次のプレーに当たりをつける。まだ第2ダウン。10ヤードなら刻んでも大丈夫だと思い、プレーアクションからのスプリントロールでアンダーに落とすプレーをコールした。オープンからのブリッツが入る。それをいなすようにQBがボックス外にロールアウト。当たりコールだと思ったのも束の間、WRにヒットしたかに思えたボールは腕から宙にこぼれだし、カバーしていたディフェンダーの手の中に納まった。インターセプトで攻守交替。
「大丈夫!大丈夫!」と、肩を落とすメンバーに言葉をかけるのも私の仕事。それにしては何の工夫もない声掛けだが、無言よりはましだろう。

 さて、いつもと文体が違うなと思った方がいればこのブログの愛読者と言って差し支えないだろう。ひと文を短くし、リズムよく小刻みなテンポの読み心地は、読み手の焦燥感を煽ってスポーツの描写にはもってこいだ。そういうことも、私はできるのだということをここで誇示しておきたい。
 どうして私が突然あさのあつこよろしく、スポーツ青春小説風描写を織り交ぜたのかというと、オフェンスチームの課題がこのシリーズのターンオーバーに象徴されているからだ。
 ゲームプランはどれも及第点以上は出せる程度には遂行できた。ランパスのバランスもラン25プレー、パス27プレーと偏りないプレーコールとなったし、獲得ヤード355ヤードはプレーのクオリティが担保されていた裏付けともいえる。前半残り56秒で回ってきたシリーズもボールイートすることなく、タッチダウンまで繋げた。攻める気持ちを体現したシリーズになっただろう。
 ただ誤解を恐れずに言うならば、本来はもっとハイスコアに持ち込める試合だったことがオフェンス全体を見たときにせいぜい及第点に終わった所以でもある。事実、冒頭で詳細に描写されたシリーズは得点につながるはずだったし、試合終盤、フィールドゴールに終わった最後のオフェンスシリーズもまたタッチダウンにつなげることができた。ゴール前でのターンオーバー後、続く2シリーズもパントに終わった。その後QB3番高橋からWR22番桑原へのロングパスがそのままTDにつながったのをきっかけに、無得点に二の足を踏んでいたオフェンスユニットの息が吹き返したことは、前節と比較して成長したところではある。が、あえて得点できなかったシリーズに焦点を当てると、そのうちほとんどが自陣深くから攻撃が始まったシリーズなのが分かる。パイレーツ戦でも同じだった。深く陣地回復がされたあとのシリーズでエンドゾーンを背負ったオフェンスが苦手で脱出できないまま試合をコントロールされた。相手チームの力差から少しづつドライブをして敵陣に入ることができてもそこからレッドゾーンまでが遠かった。
 ロングドライブができないこと、ゴール前でのインターセプト。その二つに共通する原因を探せばすぐに集中力の問題をあげることができる。サードダウンコンバージョンの成功率が39%、パス成功率が45%前後と十分な数字まで持ち上がらないことも、集中力の持続力や瞬発的なポテンシャルの出力が原因のひとつなのかもしれない。そもそも、ミネルヴァのオフェンスはグラウンドアタックを中心に構成される。ランの平均獲得ヤードが4ヤードであっても3DNショートができるのは必然であるし、むしろパスモアな状況に追い込まないよう3DNショートを作りながら刻んでいくゲームメイクがセオリーになる。しかしそれに対する3DNコンバージョンの成功率が低すぎる。6割の確率で続かない地上部隊はそこまで脅威にならない。残り2ヤードを取り切るランの圧力。その中でディフェンスをニュートラルに持ち込むためのパスの精度。このふたつが今のオフェンスが持ちうるポテンシャルを発揮するための必要条件なのかもしれない。



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