Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Game Plan「Game 6 アズワンブラックイーグルズ戦」

 Game 6 アズワンブラックイーグルズ戦

 ゲームプラン①左右に揺さぶりをかける

フロントは2メン、3メン、4メンと多様。正確なギャップコントロールよりもリアクションとパスートでストップしている印象が強い。まずは左右に大きく展開するスクリーンプレーやゾーンプレーを基調としてセカンダリーにフロウを強調させる。その後ジェットモーションのカウンタープレーやミスディレクションを用いてLBの足をストップさせる。

またこれまでランからパスモアにコントロールしてきたオフェンスだが、プレーアクションを序盤から組み込み、同じくLBの足を止めてパスからランモアな状況を作り出す。

 ゲームプラン②ボックスをオーバーカウントさせない

プレーアクションや左右への展開によってLBの足を止めるだけでなく、ボックスに人数を集中させない。相手から見ても、ミネルヴァオフェンスの最大の脅威はラン。ボックスの人数をコントロールすることはミネルヴァにとっての生命線。RPOとリードオプションではQBの性格なキーリードが必要。QBだけでなく、TBにはスピードを、ブロッキングにははっきりとした動きを求める。
また体型でも優位を生み出すためにEmpty体型で極端に軽く、Bunch体型で極端にアンバランスにするなどで特殊なフロントの付き方を抑止してブロッキングが捌きやすいディフェンスに引き込む。OLはしっかりとコミュニケーションを取れば必ずPOAは作れる。そのためにハドルの集散は早く、ブレイクは大きく、オフェンスの雰囲気とテンポを崩さない。

 ゲームプラン③有終の美

有終の美。終わり良ければ全て良し。飛ぶ鳥跡を濁さず。こういう類のことわざは好きじゃなかった。上手くいかなかった物事に対する最後の言い訳のように思えたからだ。ただそれは、勝敗だけに価値があると思っていた想像力に乏しい若かりし松場智紀の考えにすぎなかった。

必ずつまづくことや失敗がある。負けることもあれば批判されることもある。それでも勝ちたいと思う。悔しいと思い己を奮い立たせ、勝つために努力する。その過程に意味を持たせるのが、結果であり有終の美なのだ。過去は変えられるといったのはキングコング西野だが、ここで負けたら何も変わらない。勝てば過去が価値になる。

今日、長いフットボール人生を終える選手がいる。その人生を、これまでの過去を、負けや失敗や悔しさを、価値に変える。そのために今日は戦おう。

【答え合わせ】

 いつもに比べ、ずいぶんと簡素なゲームプランを試合後に予約投稿することになったのには、二つの理由がある。ひとつは試合後に大阪大学のアメフト部に講義をする予定があったためホテルでその準備をしていたから。そしてもうひとつは、筋の通ったゲームプランを構築できていなかったからだ。
 アズワンのスカウティングには苦労した。多種多様なフロント、パスラッシュの傾向を掴むことが難しく、スキームを理解できないまま試合前日を迎えてしまった。本来、スカウティングは試合のある週末の前の週末までに完了しておきたい。試合ごとの間隔は2週間あるが試合にむけて練習ができるのは、はじめの週末だけだからだ。だからそこまでにビデオを処理してスカウティングをし、ゲームプランやコールシートを作る必要がある。しかしリーグ戦が佳境に入り、さらに電通アズワンという手ごわい相手との連戦となると、電通のスカウティングに力を入れ過ぎればシワ寄せがアズワン戦に影響する。
 だから今回は割り切った。電通戦とは打って変わって新しいプレーは準備せず、やりなれたプレーを中心にオープナーを構成した。これは決してアズワン戦に向けて気合が入っていないとか、なめているとかいうことではなく、むしろ計画的にスカウティングできていればよりいい戦略が執れたという自身への戒めであるのだ。

 結果は富士ゼロックス10-9アズワンで勝利。これでリーグ戦績は4勝2敗。勝ち越して1年目のシーズンを終えることができたが、攻撃チームにはいくつも課題が残るシーズンであることはスタッツからして自明だろう。そこも含めて1年目のコーチ経験ついてはまた違ったエッセイにしたためよう。

 ゲームプラン①左右に揺さぶりをかけることは、おおむね遂行できたし機能した。序盤はLBの豊富な運動量にオーバーパワーされ効果的なゲインこそ生み出さなかったが、終盤TDにつながるシリーズで核となったのがアウトサイドゾーンのカットバックレーンであり、外にPOA(ポイント・オブ・アタック:攻撃地点の意)を設定した前半戦が効果を発揮した。
 プラン②ボックスをオーバーカウントさせないことについては、アズワン守備が想定よりもボックスを強調しないでディフェンスしてきたため、ランプレーはコンスタントにゲインするようにも思えたが、フロントを4i-0-4iの3DLに両エンドにLBをあげたベアーフロントに苦戦した。必然的にランブロックはマンツーマンになり、ボックス中央のILBがTBをマンツーマン目に見てくるためデイライトでギャップが開かないまま、インサイドアウトでILBにタックルされる絵を作られた。
 シリーズごとのピットインで相手ディフェンスがやりたいことを説明しながら有効なプレーを探っていく。選手から出てくるアイデアも積極的に採用しながら、その場でシリーズのプレー構成を組み立てるのは、前節で即興のプレーコールに多少の手ごたえを感じていたからだ。もちろん、この試合もいつも通りひと試合分やりきれるオープナーを用意していったが、試合後にコールシートを見直すと最初の15プレー以降は全てアドリブでのプレーコールだった。中でも選手からのアイデアでILBの動きを制御するためにTEクラックのプレーをやりたいと提案され、それが美しく決まったのには単一のプレーではあるが満足感があった。

 この試合はミネルヴァにとって特別だった。勝てば初めてX1のシーズンを勝ち越しで終えられること以上に、もう一つ勝たなければいけない理由があった。Xリーグ最年長選手、OL#67犬飼選手の現役引退試合となるからだ。今年で51歳。昨シーズンに一度現役を退きかけたが、思い残すことあってか、今シーズンを最後と決めてチームに戻ってきた。
日本体育大学フットボールを始め、その後富士ゼロックスミネルヴァに入団。大学を含め34年間の現役生活を今日で終えることになる。

 「下手かもしれないが、誰よりも練習は必死でやってきた自信があります。最後の一年もスタメンを取るつもりで必死にやります。」

私が初めて犬飼さんに会った時に話した内容だ。グラウンドに出て、本当に全ての練習メニューに全力で取り組む姿は、いい意味で社会人の選手らしくなく、泥臭く、オフフィールドでは気さくで、OLユニットに欠かせない存在だった。プレー面でも考えをもってプレーし、また指摘に対して謙虚で、私の人生より10年以上も長くアメフトを続けているのにも関わらず、私の求める動きを練習毎に相談してくださる姿勢が印象的だった。

ある男の話をしよう。
一生をかけて戦う戦士がいた。

ある男の話をしよう。
その男は戦うことを愛し、そしてまた戦いに愛された。

ある男の話をしよう。
その男は長い間、最前線で戦い続けている。なぜか。戦うことが好きだからだ。

ある男の話をしよう。
その男はミネルヴァというチームで、最前線で、30年近く戦い続けている。なぜか。アメフトが好きだからだ。ミネルヴァが好きだからだ。

ある男の話をしよう。
戦いが好きで、アメフトが好きで、ミネルヴァが好きで、チームと共に歩んできた男が、それを辞めようと決意した時。その想いの大きさは、俺には測りきれない。ここにいる他の誰にも測りきれない。ただひとつ分かること。今日は勝たなきゃいけない。理由はたったひとつ。男を漢にするためだ。

 ポエムではない。試合前のロッカールームでチームに向けて話したことだ。10対9。勝利へ皮一枚をつなげたこの1点。これはアズワンが最初のTD後のトライフォーポイントを失敗したことによる点差だ。アズワンが「取りこぼした1点」というのが客観的な見立てかもしれない。それでも私はこの1点に、今年のチームの価値を見出したい。
 アズワンが外した1点。ミネルヴァが決めた1点。前半残り3秒でFG圏内にパスを通したオフェンス。4DNギャンブルを3度止めたディフェンス。最終ドライブで犬飼選手を入れてニーダウンできたチーム。月並みな表現だが、チームがひとつになることで手繰り寄せたこの1点に、勝利以上に大きな価値があるのだと私は感じたのだった。


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