Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Week 1

2019-2-17
六本木/キックオフミーティング

 卸したてのグレーのスーツに真赤なネクタイを締めて前に立つ。ミーティングルームいっぱいに選手たちが座っている。年を重ねるごとに人見知りする性格は矯正されてきたと思っているが、それでも60人以上の、それも全員年上の選手たちの視線が私に集中するのに緊張せずにはいられない。背筋を伸ばして、深めに呼吸をする。とはいえ、伊達に22年間人見知りと向き合ってきたわけではない。こんな時の対処法は心得ている。

「おはようございます!」

大きな挨拶。それで私に向かう視線をはじき返した。

 私が富士ゼロックスミネルヴァのオフェンスコーディネーター(OC)に就任することが決まったのは、キックオフミーティングの3週間前だった。そもそもは、私が趣味としてプリントTシャツを作っていた時に、たまたま見つけた新興のプリント業者の社長が、ミネルヴァのGMと旧友だったという、「お姉ちゃんのクラスメイトの友達のいとこが芸能人なんだよねぇ~」的な複雑かつ遠すぎるつながりを奇跡的に引き当てたのがきっかけだった。

 妙な縁に導かれてチームと知り合う私であったが、私がミネルヴァのOCを引き受けたのには理由があった。ひとつは無知が故の自信だった。アメフト歴4年にして目の前にある大きなポストのオファー。当時の私はとにかく自分の実力を過信していたのだが、私が壁にぶつかり粉々に砕け散りゆく様は来週以降に辿っていこうと思う。もうひとつは、チームが今シーズンを機に変わりたいという想いに触発されたからだった。
 2シーズン前に社会人アメフトリーグ、Xリーグの1部に復帰したミネルヴァだが、過去の戦績は44戦6勝38敗。6勝のうち5勝が直近の2シーズンだと思えば上昇傾向にあるチームであるが、依然として弱いチームであることに疑いはなかった。そんなミネルヴァが、トップチームに比べて恵まれない環境でも、選手を主体としたチーム作りで勝てるチームに変わりたいと願っている。その願いを私の力で実現できるかもしれないという期待感は、甲子園ボウルで敗戦した後、明らかに燃え尽き症候群になっていた私にとってメラメラと熱を持った新しい燃料となった。

 「やります」と即答した。先輩のいる他チームからの勧誘もあったし、大学からのオファーもあった。それでもミネルヴァを選んだのは、弱いチームを、22歳にしては少し細すぎるアメフト経験のないコーディネーターが強くすることが、最も野心的で意味のあることに思えたからだった。