Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Week 5

2019-3-16
富士ゼロックス海老名事業所

 初戦まで残り5週間。ちなみに相手は富士通フロンティアーズである。
 「ちなみに」という接続詞を用いることで、特に対戦相手に関して気にしていない大物感を演出してみたものの、私は最初に初戦の対戦相手が富士通フロンティアーズであることを聞いたとき失笑をする他なかった。22年間生きてきて最も見事な失笑だったと記憶している。むしろこのショッキングな報告を失笑のみで受け流せたことに拍手喝采である。
 ご存じない方に説明しておきたいのは富士通フロンティアーズ様がどれほどに強いチームであるかということだ。まず、敬称略ではいられない。彼らは昨年の社会人アメフトXリーグの王者である。それだけでなく、2016年、2017年、2018年と王者であり続けている。3年も続けば短めの天下と呼んで差し支えない。片や我々富士ゼロックスミネルヴァはXリーグ1部での戦歴6勝38敗。もちろんポストシーズンに進出したこともなければリーグ戦を勝ち越して終えたことすらない。
 同じ「富士」の冠を掲げ、片や富士山のごとく堂々の日本一。それに比べて我々はせいぜい箱根山といったところで、ここはひとつ箱根ゼロックスミネルヴァに改名した方がいいだろう。なんだかローカルチームっぽくて親しみやすい。
 要するに、富士通フロンティアーズはめちゃめちゃ強いのだ。

 強豪との初戦を控える中、私はチームの悩ましい実情に頭を抱えていた。土日の練習に選手が集まらないのだ。オフェンスの選手が集まるときにはディフェンスの選手が少なく、その逆もあれば、ラインの選手だけが足りないなんてこともある。
 プレーブックを作成したとき、社会人チームを始めて指揮する私は学生に比べてどれだけの練習ができるかを概算してプレー数を決めた。しかし想定していたよりもはるかに練習量は少なく、それも当日になって誰々がいないとドタバタすることだって稀じゃない。
 
 「話が違うじゃないか!」
 
 私はチームが今年変わりたがっていると聞いてミネルヴァを選んだのだ。練習が始まって1か月弱、社会人チームの洗礼を受けた気分だった。
確かに選手たちは会社員として平日はそれぞれの業務に従事している。こちらは学生として暇という暇を持て余していまさらドラマ「プロポーズ大作戦」を1日で全話鑑賞しているようなアホである。その点で全く頭が上がらない。それに家族がいれば土日は家族との時間もあるだろう。アメフトよりも大切にしている友人や恋人がいることには何の疑問も持たない。
 しかしおかしなのは、それでいて全員が出場機会を得られていることだ。アサイメントの習熟度に関わらず、均等にプレー機会が得られる。それが彼らの文化として根付いていた。まさに「楽しくアメフトができればいい」である。
 
 数週間、選手のスキルを見るためにデプスチャートを出さずに練習を行っていたのをやめて序列をつけることにした。そして序列の評価項目に練習への貢献度を加えることにした。基準が曖昧であることを批判されたり、うまい選手が無条件にスターターとして起用されるべきだと意見されたりもしたが、私はまず選手に競争意識を持たせるための土台作りから始めるつもりだった。
 まず選手が多く集まれば多くの練習がこなせる。練習に出ないと試合に出られないとなれば、上手な選手が練習に積極的に参加する。すると共に練習する選手の技術も向上する。そうしてやっとスターターを競争する文化が定着する。
 これまで机上でアサイメントと向き合ってきただけの私にとって、こうして選手やチームのモチベーションをマネージメントすることは簡単ではない。遠回りで、時に間違った方向に進んでいる気もするし分からないことも多い。そこに練りに練られた理屈や哲学はなく、かといって衝動的でもない、どちらかといえば足踏みしていられないような焦燥感に駆られる形で決断することも多い。それでも自分なりにとりあえずやってみようと思う。

 ケンゾーの上司曰く、「失敗しても当たり前、成功したら男前」。
 プロポーズ大作戦、少しは役に立ったかな。


Twitterではよりリアルタイムな悩みや、エッセイにまつわる写真やエピソードをつぶやいています。】
twitter.com