Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Game Plan「Game 5 電通キャタピラーズ戦」

 Game 5 電通キャタピラーズ戦

 前節の答え合わせが出来ていない。なぜか。12月の中旬に卒業論文の提出が待ち構えているからだ。私は早稲田大学の文化構想学部表象メディア論系文化身体論ゼミに所属している。文字通り、文化を構想しながらメディアの表象について論じる中で文化を身体しているのだ。はっきり言って、論文のテーマすら定まっていない。そんな状況下でのうのうとブログを更新する余裕があるだろうか。いや、ない。(疑問・反語)
 と言いながらも試合前夜の更新をしている理由は、私がルーティンにこだわる人間だからだ。試合前日にブログを更新すること以外にも、試合会場には必ずスーツで向かうことや、試合会場に向かう電車で聞く音楽のプレイリストも決まっているし、試合前にレシートが777円になるようにコンビニで買い物をすることなど、願掛けに願掛けを重ねている。
「え?試合前?あぁ、普段と特に変わらない生活をしてますね(すまし顔)」のスタンスが今どきの流行なのも重々承知の上だが、不安症の私にはルーティンが緊張とリラックスの緩衝材になってくれる。

ゲームプラン①Frontを機能させない

 電通ディフェンス最大の脅威はフロントセブン。スピードが武器の#33パングと縦への圧力は健在のベテラン#92紀平のDTふたりをはじめ、ローテーションで常にフレッシュな動きを見せる豊富なLB陣がディフェンスの核になる。
 マンパワーでは1歩先を行くフロント陣を封じ込めるのは正直言って難しい。だからこそ正面から「圧倒」するのではなく「機能させない」戦略を執る。リードオプションやエンプティ体型を使用し、ボックスカウントで有利になる体型、あるいは明治安田で陥ったオーバーカウントのボックスを無効化するプレーを多用する。
 また相手はベストスタートでペネトレーションすることでプレーを破壊してくるため、ケイデンスを使い分けて時間軸でも主導権を握る。常にボールスタートを心がけよう。
 オプション以外ではインサイドゾーンを多用する。理由はプレースピードですれ違いが生まれるからだ。TBは一瞬のデイライトを見逃さず、3ヤードをもぎ取る。

ゲームプラン②時間を制する

 意味はふたつ。一つ目はタイムポゼッション。二つ目はプレータイミング。
 電通オフェンスの武器はQBとTBのグラウンドアタック。むやみに時間を与えれば明治安田と同じ展開が想定される。自分たちで時間をコントロールしようとする必要はないが、ドライブをスコアに繋げる必要がある。思い切りよくプレーすることは下に書いてあるが、あくまでも丁寧にドライブを続ける。
 次にプレータイミング。プレーコールとケイデンスでスタートのタイミングをコントロールすることは前述した通り、フロントの圧力を抑止する役割を成す。それだけでなく、ロングパス、ショートパスに限らず思い切りよく投げ込むことを求める。フロントで圧力をかける分、パスカバーはボールリアクションでボールを狙いにくる。アンダーゾーンは手薄のためクイックにヒットする。ディープはタイミングを遅らせればSFの寄りに切られる可能性もあり、手前にショートさせれば深めにドロップするLBに絡まれる。QBはチキらず投げ込む勇気を持つ。

ゲームプラン③先手を打ちまくる

 電通ディフェンスの特徴として、特にセカンダリーが試合中に体型とプレーに対してアジャストをかけてくることが挙げられる。これまではリズムをとるために安全なプレーから展開していたが、デザインされたロングパスやスペシャルも早いタイミングでコールして序盤から畳みかける。これまでのベースプレーの裏から試合を展開して、ディフェンスに選択肢を多く植え込む。足が止まり始めニュートラルなディフェンスに引き込んだら得意なプレーで再びゲインを重ねる。

【答え合わせ】
 遅ればせながらにはなるが、答え合わせをしていこう。結果は富士ゼロックス13-19電通キャタピラーで敗戦。これで3勝2敗。4勝1敗とすれば辛うじて残るエリアファイナル進出への切符も手放すこととなった。

 ゲームを通して、また一つ自分の未熟さと社会人リーグの難しさ(と同時に面白さ)を知った。私には臆病が故にアサイメントを多く準備する癖がある。大学のチームではコーディネーターが取捨選択してゲームを作ってくれたが、今は自分で選ばなければいけないし、捨てなければいけない。練習量と選手の負担、ゲームプランや試合に持ち込むプレー数などを加味するが、一番難しいのは自分の理想とチームの現状の差を見極めることだ。自分の頭の中だけが先行して試合を作ってしまうと実際に動く選手との間に乖離が生まれる。分かっていたから今まで自分の中に住まうニュープレーメーカーの一面を抑え込んできた。ベーススキームで戦いきる。それが一つ、個人的な今シーズンの目標と実験でもあった。
 ところがどっこい。である。電通戦に向けて多くのプレーを用意した。やりなれたプレーのマイナーチェンジならまだしも、スキーム自体が全く新しいものをインストールした。具体的なプレーはTwitter(@coach_novice)と連動しながら紹介するが、プレー自体はよくデザインされていると思うし、選手のポテンシャルを生かす意味でも悪くない選択だったと思っていた。
 プレーが増えると、精度を上げるために土日のスクリメージ練習では新プレーが多く組み込まれる。不安だからだ。当たり前のことだ。そうすると、ベースプレーで春からやりなれているプレーは練習しなくて大丈夫だと、スクリプトから削られていく。その結果、練習では切り捨てた2プレーをインターセプトされ敵陣深くでボールを渡し、TDの可能性すらあった大当たりのスクリーンプレーはボールがショートしてデザインが崩れた。ゲームプランの中でドライブを確実にスコアへ繋げることの必要性は説いていたが、逆にスコアを献上したことが試合の最も大きな敗因だろうか。
 では期待の新プレーはどうだったか。実践導入が初めてのプレーは、OLが経験則的なムーブを抑制して、逆に守ったステップとブロッキングを助長した。結果的に紙面上では綺麗なプレーもスピードが伴わずにゲインを生み出さない。
 自分が不安だと、それを他人に当たることで逃げようとする自己防衛と同じように、電通戦に向けて抱える不安を、ベースプレーではなく新プレーという「そもそも不安定な船」に乗せることで自己否定感を薄めようとしていたのかもしれない。とにかく、正面から勝負する自信がなかった。これが私が知った自身の未熟さ。
 また、社会人リーグの難しさは容易に戦略的な方向転換ができないこと。数少ない練習量で、どれだけリアリティをもってシーズンを見通したプランニングができるかどうか。また、一度切った舵に責任を負う覚悟があるかどうか。その舵取りにコーディネーターとしての能力を問われている気がする。

 ゲームプラン①Frontを機能させないことへのアンサーは、50点ぐらいだろうか。ランブロックは想像していたよりもいい勝負ができた。が、特に前半戦にプレーを内側に集めすぎてLBの出足に負けて思うように前進できない時間が続いた。後半戦に左右に振れ幅を持たせカウンターなどが機能しだしたが、もう少し早く切り替えてもよかったのは反省である。
 減点分の50点はパスラッシュに翻弄されたことでQBに余裕を与えることができなかった。特に#33パング選手の左右へのスピードは「今まで体験したことないタイプのプレイヤー」とミネルヴァの選手を困らせた。パッシングのスタッツは23回試投して7回の成功、2回のインターセプトといううだつの上がらない成績だった。
 次いで、ゲームプラン②時間を制することは、前述した通り少ないチャンスをものにする堅実なドライブができなかったことを例に、全く遂行できなかった。ハーフタイム中に、パスオフェンスで後手に回り、新プレーが効果的に作用しないと判断した私は予定していたオープナーを捨て、アドリブでプレーコールすることにした。この点は本来公開するのをはばかられることだが、私は試合開始から終了まで全てのプレーコールを予め順序だてて決めている。その理由はまだ詳細にしないでおくが、要はライブでプレーコールするのが得意ではないのだ。
 敷かれたレールを外れることは、デザインされたゲームの時間軸をゼロに戻すことになる。その意味でこの試合ではプラン通りにはLOSでの時間をコントロールできなかったが、一つポジティブなことを言うとアドリブでプレーコールすることへの抵抗が薄れた。後半、1ポゼッション差まで迫ったTDを生んだ11プレー74YDSのシリーズをオープナーに頼らずに成立させることができた。まだまだスキルと言えるまで成熟した感覚には遠いが、個人的に成長を感じるシーンだった。
 しかし、そのTD後でチームとしての課題が浮き彫りになった。13対19の1ポゼッション差。試合残り時間2分53秒。残りタイムアウト数3回。ここでミネルヴァが選択したのがオンサイドキックだった。本来キッキングコーディネーターと攻撃コーディネーター、守備コーディネーターがコミュニケーションを取り合って決定することだが、知らない間にオンサイドのキッキングチーム(通称:ハンズ)がフィールドには展開していてノーマルのキックカバーにしてほしいことを伝えるには遅すぎた。チームが始動してから試合毎にキッキングと攻守のコミュニケーション不足が指摘され、そのたびに徐々に改善傾向にあった部分だが、繊細な場面で粗が出た。
 私の意向としては、次にオフェンスが回ってくるのが試合残り1分30秒ごろ。キックの3点では追いつけない点差のためタイムアウトは残さずにTDだけを狙ってスパイク、フレッシュ、アウトオブバウンズで時間をセーブしながら、ハリーアップオフェンスをしたい。また、一番嫌だったのはフィールドポジションで苦しむことだった。前回の答え合わせにもある通り、ミネルヴァオフェンスは自陣深くからの攻撃が苦手だった。時間的にもプレッシャーのかかる状況で自陣を背負わせることを避けたい私は、ノーマルカバーで敵陣に追い込んでプレー毎にタイムアウトを取り、少なくとも自陣30YDSからのドライブに逆転の望みを託しかった。が、オンサイドキックはリカバーされ、続く電通攻撃は3DNアウトに抑え込んだものの、電通の敵陣パントで自陣10YDSまでボールを戻されて90YDSが残った。
 ミネルヴァのラストチャンス。1プレー目はエンプティのミドルルート。タイミングよくヒットしてフレッシュかに思われたプレーは、不正な体型で取り消し。5ヤードの罰退となった。その後いくらかゲインするも、立て続けにロスタックルをくらい万事休す。4DNギャンブルも失敗しゲームエンドとなった。

 若干まとまらない答え合わせになったが、試合を終えて数週間たっての雑感だ。他にも書きたいことが山ほどあるが、次節の答え合わせや、その後のシーズン反省エッセイにでも差し込もうと思う。Twitterで多く資料公開していきたいので、是非フォローの方もよろしくお願いします。


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