Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

エッセイ「甲子園前夜」

 去年のちょうどこの時間。甲子園前夜。新大阪のホテルの一室。後輩のASふたり、OLの選手ひとりと、4人でコールシートの読み合わせをしていた。毎試合、前夜にこのメンバーでコールシートを上から順に確認しながら、このプレーはここをチェックするとか、こうじゃなかったらこっちのプレーに入れ替えるとかいう話をするのがルーティンのひとつだった。もともとは試合前にイメージトレーニングをしようと始めたことだったが、実際にはそれぞれが落ち着くための、それこそ儀式的なものであって、話す内容よりも多少の軽口をたたき合いながら「じゃあまた明日」と解散するのが心地よかった。

 結果は20-37で敗戦。スポッター席からグラウンドに降りると、泣き出す後輩にかける言葉が見つからなかったのを覚えている。ロッカールームでも何を話していいか分からなくて、後輩たちに「負けたら何も残らない」と言って辛気臭く解散した。気分が落ちると突然雨が降るというのはドラマの世界だけだと思っていたが、真っ暗な空からザーザーと雨が降る中帰路についた。帰りの新幹線では嫌がらせのように「第73回甲子園ボウル 関西学院大学の優勝」と速報ニュースが車両内の電光掲示板を流れていく。勝てば恵みの雨、新幹線の速報は祝辞に思えたのだろう。

 「後で振り返ると点と点がつながっていることに気づく」みたいなことを話していたのはスティーブ・ジョブズだったか。QBの柴崎哲平は、ここのところインタビューのたびに「先輩のために」とか、「いろんな想いを背負って」とか答えているのを各方面の記事で目にする。それを見ると、少しほっとした気持ちになる。去年、シーズンエンドとして打たれたピリオドを、彼を始めとする学生たちが線にしようとここまで戻ってきてくれた。

 きっと今年は去年よりも強い早稲田だろう。今年のチームには関わっているわけでもないし、リアルな力差を測っているわけでもない。けれど、彼ら彼女らは土の味を知っている。彼ら彼女らには去年つけてしまった土がまだ残っているはずだ。私たちが唯一「残した」その土を、涙では流しきれなかったその土を、今年は甲子園に返してきてほしい。

 では、「また明日」。