Coach the novice. 2nd season

アメフト未経験。早稲田大学卒。企業に就職できなかった私がひょんなことから社会人アメフトのプロコーチに。コーチ歴2年の新米コーチの悩みや気づき、おぼつかない足取りを辿っていきます。

Game Plan「Game 2 警視庁イーグルス戦」

 Game 2 警視庁イーグルス

 9月15日の15時キックオフ。試合終了はおおよそ17時半ごろだろうか。前節のシルバースター戦後の記事は、ミネルヴァの歴史的勝利のインパクトも相まって少しだけアクセスが増加した。しめしめといった感じであるが、「ゲームプラン」と言いながらも若干後出しで書いた感が拭えないのは私が正直者だからだろうか。いや、嘘を書いたつもりも出来合いの文を載せたつもりもないのだが、なんとなく勝った試合の後に「こうやって勝ちました!予測してました!」は話が出来過ぎているように感じるのだ。
 そういうわけで、今回は試合前に先にゲームプランを書いてしまおうと思いついたのだ。世の中便利になったもので、どうやら予約投稿なる設定をすれば指定した時間に書いた記事をアップしてくれるようだ。投稿する時間を試合終了の目安17時半に設定をすれば、試合を観に来てくれたお客様は帰りの電車で私の頭の内を覗けて二度楽しいし、なんといっても私の抱える謎の罪悪感が払拭されるのだからこのハイテク機能を利用しない他ない。

 私の指揮する攻撃ユニットのゲームスローガンは“GAIN”。意味通り、前に進むことを期待したスローガンだが、フィールドを前進していくことよりも試合のプロセスを通して“成長”することを選手には伝えていた。プロセスと書いたのは、試合での成長はもちろん、試合までの練習や過ごし方において前節を越える取り組みと意識をもって成長することを期待していたからだ。試合前日の練習では、
「シルバースターを倒すためにせっかく登ってきた階段を降りないこと。一度下った階段はまた登りなおさないといけない。降りた分焦って登ろうとしたら必ずどこかでコケる。だから一段ずつ積み重ねないといけない。」と、気を抜かずに試合に臨むことを強調した。ちなみに、かく言う私は大学の卒業単位を積み重ねることができずにいる。
 私たちは初戦に勝っただけであり依然実力が十分なチームではない。週に2回の練習と試合を通して着実に力をつけていくことで結果的に最後強いチームが出来上がる。そういった意味も込めて、今節は成長、GAINとスローガンを掲げた。

ゲームプラン①フィールドをポゼッションすること
 前節では徹底して時間をポゼッションすることで何とか勝利を手繰り寄せた。今回はフィールドを広く使うことで相手ディフェンスを翻弄する。というのも、スカウティングで警視庁ディフェンスが4DL, 4LB, 3DBのラン偏重のパーソネルを使用していることが分かっている。パスカバーの種類も限定的でWRに対してのミスマッチも生まれやすく、結果的に守備にアンバランスな箇所が見受けられることから、その隙間を狙って常に数的有利なサイドへプレーを展開する。

ゲームプラン②肉弾戦を制すること
 前節と同様、ランプレーによるゲインが重要になる。しかし上記の通り今回は時間よりもフィールドのポゼッションが求められる。その中でランプレーがゲインすることは、ラインオブスクリメージ(LOS)を支配することになる。ランによる圧力はDLとLBを中央に集める役割を果たし、それが再びアンバランスなディフェンスへの引導となる。
 また8メンボックスのディフェンスに対してあえて重い体型を使用することで肉弾戦を仕掛ける。これまで培ってきたファンダメンタルを発揮する意味を込めてランプレーから逃げないことを選手に伝えている。

ゲームプラン③スピードで圧倒すること
 とはいえ、ランプレーに関してはスパルタ的思想で強行突破するつもりではなく、スピードによってLBをバックサイドに置いていくことでゲインを狙っていくプレーを増やしている。そのためにラインズにはスピードで負けないための初動と、正確なコンビネーションが求められる。
 またパスユニットは警視庁の特徴である重量級DBとスピードによるミスマッチでゲインを重ねることを期待している。前節は時間を流すために不用意なロングパスを狙わずに終えたゲームだったが、そのフラストレーションを思い切り解消するためにもDBとの1on1に勝ち切って奥を取ることが、結果的にスコアリングにつながる。

 大まかなゲームプランはこんなところ。試合終了後、これらのゲームプランがどう遂行されるのか。はたまた途中で路線変更することになるのか。答え合わせをしたいと思う。

【答え合わせ】

 試合から2日。試合翌日は祝日だったため朝からレビューミーティングを行った。アメフトでは縦とか横とかタイトとかワイドとかいう言葉がよく使われる。縦やタイトは主にOLとDLのことで、横やワイドはWR、DBのことだ。壁2面に、縦横それぞれのアングルで撮影した試合のビデオを投影してミーティングは行われる。
 ミーティングではアサイメントからインディビジュアルな箇所まで様々な反省や指摘がなされたが、はっきり言ってこの試合で最も反省するべきなのは私、松場智紀(23歳/学生)なのだ。

 富士ゼロックスミネルヴァ21-17警視庁イーグルスでまたも接戦を制したミネルヴァだが、その内容は手放しで喜べるものではなかった。富士ゼロックスの得点である21点は全て2Qまでで、後半は無得点。それどころか後半には警視庁にピック6(ターンオーバーされたボールをそのままエンドゾーンに持ち込まれること)を献上し、気分良く折り返した試合をあわや逆転負けという点差に追い込んでしまった。
 ゲームプランを振り返りながらこの場をお借りして反省の弁を述べさせていただく。

 一つ目のプランだったフィールドをポゼッションすることだが、序盤はシナリオ通りフィールドを広く使いながら攻撃することができた。左右に揺さぶりをかけながらスクリメージも押し上げることができ3プレー目でタッチダウン。続くシリーズも7プレーのドライブでタッチダウン。幸先がいいように思われたが、想定と違ったのは相手守備が4-3-4のパーソネルであったこと。そこまでは予測していたが、ベースのディフェンスがアンダーゾーンを重視したパスカバーであったことに対応しきれなかったのが後半に得点を重ねられない要因となった。本来は奥のゾーンに脅威を与えることでフィールドを縦方向に広げる必要があったが、アーリーダウン(1DN、2DNのこと)で広く薄いプレーコールに偏り、3DNロングのパスシチュエーションを作られロングパスをコールするも時すでに遅しといった感じを繰り返してしまった。その結果、前がかりになったディフェンスにフックルートをインターセプトされリターンタッチダウン

 二つ目のプランに関しては概ね遂行できた。ラン平均獲得ヤード、5.5ヤードの数字はゲームをコントロールするのに十分な結果であるし、それが1本のロングゲインではなく積み重ねによるスタッツであることからも、スクリメージでの勝負にはやはり自信がある。しかしながら、これだけ走ってランでのタッチダウンが生まれないのにも、フィールドを上手に使いきれなかったことが関わってきている。奥に対する脅威がない攻撃に対して守備は当然前がかりになる。そうすればWRのランブロックが間に合う前にSFがタックラーとしてランプレーに絡みやすくなる。それがランでゲームをブレイクできないことにつながるのだ。

 三つ目のプランはスピードで圧倒することだったが、この点は私のプレーコールがチキりにチキったため生かすチャンスすら与えてあげられなかった。というのも、警視庁がどれだけスカウティングをしてきたかは分からないが、かなりの確率でプレーを壊すコールを当ててきた。ランではキーブロックが潰れるようなブリッツ、パスではタイミングよく嫌なパスカバーがコールされ、こうなるとコーディネーター心理としてはプレーコールに大胆さがなくなり、無難なプレーを入れて様子見をしたくなる。が、そうなったら相手の術中。より読みやすく、守りやすくなるオフェンスに傾いていき、後手後手の試合展開になってしまった。結果、ロングパスやプレーアクションは守備に引いて守られ、WRのスピードを武器にできる状況を最後まで作り出せなかった。

 ここまでがプランに対しての反省だが、これら全てが私が「モード」に入ったことに起因する。私は負け試合や振るわない仕事ぶりの試合では、必ずと言っていいほど共通した不安定な精神状態に陥ってパニックになっていた。そのことを自分で「モード」と呼んでいるのだが、この試合でもはっきりとモードに入る自分を客観視していた。モードに入った時の特徴としては、頑固になる、相手のディフェンスを見るべきなのに自分たちのオフェンスを見てしまう病が発症、周りの声が全く聞こえない、ペンが全く走らない、発言が極端に減る、目の焦点が合わない、後日筋肉痛になるほど激しく貧乏ゆすりをする、左手人差し指の第2関節を思い切り噛む、などと枚挙にいとまがない。とにかくディフェンスを冷静に俯瞰する能力が低下して、結果的に選手に適切な情報を与えられず、適切なプレーコールができず、得点に足踏みする結果を招いた。
 学生チームにいるうちは、自分がモードに入った時にコーディネーターや周りの後輩がフォローしてくれていた。しかし今や自分がコーディネーター。モードに入ってしまうと誰も自分の目を覚ましてくれない。むしろ私が慌てて浮足立つ選手を鼓舞し、冷静さを取り戻させ、良い精神状態でプレーさせなければいけないのだ。普段から選手に対して、「緊張感を自分でコントロールできるようになれ」と宣っている私が感情にコントロールされていては話にならない。負けなくてよかったというのが正直な感想。
 自分の立場と責任を再認識させられたという意味で、学びのある一戦でありました。


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